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「おかえりって言える。お疲れ様って言える。今日あったことを話しあって、笑いあって、顔を見てお休みって言える」
こいつが何を言いたいのか、よくよくわかった。だから、俺から腕を伸ばしてやった。
「ただいまって、ありがとうって、言える相手がいる」
腕の中に閉じ込めてやる。すると胸元に頬を擦り寄せられた。
とても幸福そうな表情を浮かべている。
「当たり前のことが、当たり前にできる。感じる幸せは当たり前じゃない。とてつもなく大きな幸せになって俺の中に積もっていくんだよ」
目を細め、頬を緩める。目元が赤く染まり、思わずそこに口付けた。
「なにが幸せかは、自分で決めるよ」
ね、勇さん。
浮かぶ笑みに、やられた。
ゆっくりとベッドへと押し倒される。背中に感じる布団の感触はいつものせんべい布団なのに、なぜかふわふわして、とても暖かい。
ゴクリと大きく唾を飲み込む音がして、見上げれば俺も思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。
すごい、雄くさい顔だ。
いつものんびりした喋り方で、甘えん坊で、べったりな、大型犬のような根岸はいなかった。
まさに狼のような、肉食の男がここにいる。
ポタリと、こめかみから流れてきた汗が俺の頬に落ちた。
それを追うように根岸の顔が近づいてきて、そして――
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