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ピコンと軽快な音がスマホから聞こえてくる。ちらりと視線を向ければコンビニの店長からだ。
次のシフトが決まったとの連絡で、俺はそれにわかりましたと簡潔に返事をした。
「ねぇ勇さん! これでいい?」
呼ばれて顔をあげた。根岸の足元には解体されたベッドがある。
「持ち運びやすいように紐で縛ってくれ」
「はーい!」
上機嫌に鼻歌を口ずさむ男は放っておいて、俺は数少ない食器を一皿ずつ新聞に包んでいく。
必要最低限のものすらなかった部屋でも、何年も住んでいたらそれなりにも物が集まっていたようだ。貰ってきていた箱だけでは足りない。
桜の木に可愛らしい蕾がつく頃、俺たちは新しいアパートへ移ることになった。
根岸が正社員に登用され、俺も正社員として近くの会社に採用されたので、もう少し広いところに引っ越しすることになったのだ。
「ねぇ、勇さん~」
背中に伸し掛かられて、ぐぇっと変な声が出た。
「初めてのお給料でお揃いのお茶碗、買おうね」
「あるじゃねぇか」
もったいないというと、頬を膨らませた。
大男がそんなことしても可愛くない。と言いたいところだがこいつはなぜか似合うので、緩みそうになる顔を引き締めた。
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