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喧嘩ではないだろうな、この傷は。
ふとDVという言葉が浮かぶ。しかし、これ以上面倒事に巻き込まれるのは嫌だと思考を止めた。
栄養が足りていないんだろうパサパサの髪の毛を、男は鬱陶しそうに弄っていて、そわそわと落ち着かない様子だ。
カーテンレールに干してあるTシャツを手に取る。部屋着にしているそれなら大きめだしこの男でも着られるだろう。
下は同じく干してあったステテコを渡した。今のものはカラフルだから問題ないし文句は言わせない。
「下着、新品ないんだけど、洗ってあるからいいか?」
「は、はい。すみません、何から何まで」
「気にすんな」
そそくさとそれに着替えた男は再び床に座り、こちらを見上げている。長い前髪から覗く目はキラキラと輝いていた。
「……飯にするか」
「はいっ!」
この言葉を待っていたのだろう。嬉しそうに大きく返事した男は、俺の後を金魚のフンのように付いて歩いてきた。
せっせと準備をする俺の真後ろでそわそわする様子が、まるで犬だ。
「ほら」
小さな折畳み式のテーブルに、温めなおしたコンビニ弁当と味噌汁を置いてやる。自分の前には熱い茶を掛けたお茶漬けと味噌汁を置いた。
「いただきます」
両手を合わせて箸を手に取る。
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