九生猫会議

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会社の業績がある時を境に一気に傾き 俺の後輩、鍋島がリストラの対象になった。 リストラの鉾先を頼りない後輩から なんとか逸らそうと 先輩風吹かせて人事にかけあったら 退職金を上乗せするから……と 俺自身がリストラの対象にされちまった。 つい先月の事だ。 何故だか、ガキの時分から 俺はこんな失敗を繰り返してる。 結婚したばかりの同僚、 高齢の親を看る上司、 受験を控える子供を持つ先輩。 なんとなく皆、俺を避けるようになった。 今夜は生贄になった俺の送別会。 自分達のテーブルだけがシンとして、 まるで通夜の席だ。 この店の壁には ありとあらゆる業種の名刺が貼られている。 俺の名刺もこのおびただしい名刺のどこかに貼られているはずだ。 確か入社して間もなく 初めて営業成績がトップになった記念に 先輩に言われて貼ったんだ。 あの時はまさかこんな日が来るとは 思ってもみなかった。 微妙な空気の中、 無理してしこたま酒を呑んだ。 安い酒がキリキリと胃に沁みる。 居酒屋のさわがしい騒めきだけが 妙に耳に響いてた。 重い空気に耐えかねて 必要以上に明るく振る舞う俺は まるで道化師みたいだった。 テーブルの前には鍋島。  その隣には半年前俺の部屋に 転がり込んできた美樹が座ってる。 何故だか二人とも能面のような顔だ。 酔った俺はうっかり箸を落とした。 拾おうと身を屈めたら テーブルの下で鍋島と美樹が どういう訳か手を繋いでいた。 卑屈な笑顔の鍋島を席に残して 気まずい顔で席を立つ美樹を 俺はよろめく足で追いかけた。 「カッコつけて 鍋島君をかばったつもりかもしれないけど 元々彼は社長の親戚よ。 女の遺伝子はね、 生き残れる相手を自然と選ぶものなの。 私、泥舟に乗るのはゴメンだわ」 掴んだ俺の手を美樹は ぞんざいに振り払った。 ニブい俺でもさすがにこの状況は 理解できる。 俺は泥舟、奴は大船という訳か……。 俺はその日、仕事も仲間も、 彼女も失ったんだ。
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