九生猫会議

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それからどの道を どう帰って来たのか全く憶えてない。 いや。 おぼろげながら灯りがまばらな商店街を フラつきながら歩いた記憶はある。 駅前の開発で小さな商店街は昼間でも シャッターが下りている店が増えた。 通りの店はいつの間にか知らない店に 入れ替わっていたりする。 まるで狸に化かされてるみたいだ。 新しい店が出来た事はわかる。 でも前にどんな店が入っていたのか どうしても思い出せない。 そんな事をぼんやり考えてた。 大家の娘さんがやっているという 骨董品店の前で立ち止まる。 店は終わっていて、ひとけは無い。 ショーウィンドー越しに見る アンティークのティーセットや 凝った彫刻に縁取られた鏡。 見るからに年代物の古時計。 どこか遠い国の古いコインが並べられ 驚くような値段が掲げられてる。 冷たい蛍光灯の明かりの下 収入が無くなる俺には無縁の世界が そこには広がってた。 これから……どうなるんだ?俺……。 電柱にもたれかかり吐きそうになる。 なんとか持ちこたえ顔を上げると 電柱の張り紙が目に入った。 ── 迷い犬。9月9日散歩中 通りがかった猫を追って 犬がいなくなりました。 茶色の中型犬。3歳。オス。 翁丸。携帯番号……。 ずいぶん古風な名前だ。 俺の脳は勝手に ショボくれた老犬をイメージした。 電柱の横には雑草がまばらに生え 人々に忘れ去られたような 裏ぶれた公園があった。 そこで俺の記憶は一旦途切れた。 間近で砂と草の匂いがした。 ところどころ朽ちた半球体のドームの中……公園の遊具だろうか? なぜかその中に入り込んで 眠ってしまったようだ。 ドームは埴輪の顔みたいに 目と口の位置に丸い穴が ぽっかりと開いていた。 俺は大きなその口から中に侵入したようだ。 朦朧とした頭を恐る恐る起こし、 顔に付いた砂を払う。 埴輪の口から外の様子をうかがう。 空き地とも公園ともつかぬ広場に バレーボール大の毛玉が 等間隔にうずくまっている。 時折そよぐ秋風に枯れ草がなびく。 雲に覆われ薄ぼんやりとした月明かり。 草の海に浮かぶ舟のようなそれは 白……茶色……縞、灰色……猫だった。 月の光に照らし出される塊は 闇を見通す目だけを反射させ 無言で丸まっている。 ── あいつら一体……何やってるんだ? 穴から出るに出られなくなった俺に 気づいてないのか一匹の猫が香箱を崩して 立ち上がった。
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