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パトラはサビ猫達の存在を
全く無視してエカテリーナに話しかけた。
「ボスの寵愛を得る為めかしこんで来たの?
胸元の石はスワロフスキーかしら?」
「いいえ。これは我が家の執事が
趣味で収集しているロマノフの財宝。
『死を呼ぶダイヤ』と呼ばれている
オルロフダイヤモンド。
元々787カラットあったダイヤを
189カラットに細工する時できたもの……」
「エカテリーナ様の執事殿。
某銀行頭取とは仮の姿。
元々ロシア貴族の末裔だとか。
失われた財宝のコレクターとして
裏の世界ではあまりにも有名です。
第一次世界大戦の際、忽然と消えた
ロマノフ金貨約500tが隅田川から戦後
極秘裏に引き揚げられた件にも
一族が大きく関わっていたと聞きます。
前世でも時の皇帝に愛され続けた
エカテリーナ様にふさわしい秘宝。
正に猫界の女帝」
うやうやしく説明するアールの言葉を
ダミ声のサバ猫がかき消す。
【白虎】
「細工した石より
削ったカケラの目方が大きいなんて
全く人間って生きもんは妙な事
するもんだネェ。
おっと。時の帝に愛されたってェ話じゃ
この娘だって負けちゃいないよ。
平安時代には一条天皇に従五位の位を賜り
『命婦のおもと』と呼ばれ愛されたなァ
うちの小雪さ。
今じゃ純白の毛皮を纏っちァいるけど
宇多天皇の可愛いがってた黒猫だって
何を隠そうこの小雪なンだから」
「これはこれは……
老舗鮮魚店『魚寅』の白虎姐さん。
すっかり毛皮が美しい銀色におなりで。
妹分の小雪さん恥ずかしがって
小さくなっておいでですよ。
命婦殿を驚かせた犬は確か
……翁丸といったか。
奴は島流しになったんですよね?
一つ前世で私が
ホワイトハウスに住んでいた時
ソックスと言う名で国民の人気者だった私を蹴落としたのも犬でした。
バディとかいう……」
悔し気に語るアールの周りを
二つの塊がグルグル走り回っている。
サビ猫だ。
目が細く、どこに顔があるのかさえ
わからない毛柄。
アールは鬱陶しそうにサビ猫を
碧の目で射るように睨んでいる。
【小雪】
サビ猫を無視して白虎はため息を漏らした。
「全く犬って奴ァ野蛮でいけないねェ。
あの一件から小雪は生まれ変わっても
黒い毛皮を着なくなったんだ」
嫌な過去が蘇ったのか
白猫は小柄な体をさらに雪玉みたいに
小さくした。
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