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【ボス】
「まさしく我らのボスも漆黒の毛皮。
猫又の中でも黒猫の妖力は
最強だと申します。
黒光りするそのお姿は見る者を魅了し
かつてあの夢二もかの『黒船屋』で
ボスを描きました。
美しさだけではありません。
江戸の頃には
世話になった魚売りが病気で働けなくなると
薬代の為に小判を届けて
泥棒の汚名を受けながら亡くなった話は
あまりにも有名です。
その亡骸は今も東京回向院に眠っている話は
猫界では知らぬ者はいないエピソードです」
男でも惚れてしまいます……と
アールは溜め息をついた。
「弱い立場の者を決して見捨てる事が
出来ない漢気がある猫だったョ。
ウチの女将は助けられた
魚売りの子孫なンだ。
だからウチの女将は宿無しの猫や
腹ァ空かせた猫にはいつだって
魚を分けてやるンだ。
女将に助けられた猫達とその子孫は
今や東京中にいるのサ」
白虎とアールは恍惚として
月を見上げていた。
まだ見ぬボスの姿がまるでそこに
映し出されているかのように。
銀猫が独り言のようにつぶやく。
「お噂では前世
ベン・リーとかいう金持ちが家族には遺産を
1ポンドも残さなかったというのに
1500ポンド(約26億円)遺産を
相続された猫としても有名でしたわね?
あの時は確かブラッキーとかいう
お名前で……。ボスは生まれ持っての
金運財運をお持ちですのね……」
金猫もウットリと大きな月を仰ぎ見る。
【柿太郎・柿二郎】
「ところで柿太郎と柿二郎は前世
どんな猫だったんじゃ?」
二匹はまるで一匹の猫のようにくっついて
いつの間にかウトウトと船を漕いでいる。
「クローン猫だよ」
山爺の質問に柿二郎が眠たそうに答える。
時刻は深夜の2時を回っていた。
柿太郎は完全に熟睡中だ。
眠る柿猫達をやれやれという表情で
見守りながら、アールは説明した。
「クローン猫ではありません。
彼等は映画『ティファニーで朝食を』に
ヘップバーンと共演したオランジーという
猫でした。
その演技が讃えられ賞も受賞している。
ですが演じたのは一匹の猫ではなく
同じ毛柄を持つ複数の猫達だったのです」
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