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「20年位前だったら
この国じゃ犬派が大多数。
猫は陰険だとか薄気味悪いなんて言ってた
輩が手のひら返したみたいに
今じゃ猫派だって言うじゃないか。
それもこれも、テレビや映画で活躍した
アンタ達のお陰だね。今や一体何本のCMで
猫が活躍している事やら」
せっかく 白虎がほめてくれたというのに
二匹はすでに夢の中だった。
その時だった。
突然虫の声が止む。
俺が身を潜めている朽ちたドームの上を
何かが駆け上がる音がした。
「今晩は……」
銀の鈴が鳴り響くような良く通る声。
ドームの上に視線を送った猫達が
ヒゲを目一杯広げ目を見開くその先に
ウワサの主と思しき猫が現れた。
【翁丸】
だが、思いもよらない展開が待っていた。
次の瞬間、枯れ草の広場を蹴散らす
猛犬の唸り声が緩やかな空気を引き裂いた。
「おのれ、翁丸か!」
山爺の野太い声が虚しく響く。
等間隔にくつろぎ、
あるいは丸まっていた猫達は
一瞬にして毛を逆立て、叫び、逃げ惑い
あっという間にドームの中の俺一人を
置き去りにして散り散りに姿を消した。
「次の満月に……」という声が
遠くで聞こえたような気がした。
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