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「美咲ー、他人に作品売るのはいいけど、賞に出す作品出来てんの?」
部室の奥から声が聞こえた。大きな机に大きな椅子。それに似つかわしくない小柄な女子が声の主だ。
「今書いてまーす糸田部長ー」
糸田は深いため息をついた。
「あんたねー、そう言って書いてた試しある? 1度だって賞に出したことないじゃない! 今年こそは出してもらうからね!」
糸田は美咲のことをギッと睨みつけた。美咲はその顔を見て、鬼がいる……、と思った。
「はーい……善処しまーす……」
あれは本気のやつだな……。そう感じた美咲はペンを走らせる。部長の一喝に静まり返った部室には、部員のペンの音が響いている。
美咲が今書いているのは、動物愛がテーマの作品だ。美咲はこれと言って動物が好きではないが、出す予定の賞を主催する出版社が、動物関係に強い出版社な為、通りやすいテーマを選んだ。本当なら美咲はド派手な戦闘シーンを盛り込んだり、男子同士の友情ものでハァハァ……、もとい、爽やかな物語を書きたいところなのだが、賞とは審査に通らなければならないので、否応なしに書いている。
(あー、BLが足らない……)
美咲は深い深いため息をついた。
「大丈夫?」
声をかけてくれたのは隣の席の高木だ。眼鏡にお下げ髪。テンプレートの芋加減。美咲はほっこりして居心地のいい高木が好きだった。
「高木さ~ん、つらいよ~BLもの書きたいよ~」
「同じ趣味の同志として分かるわ。でも今は我慢よ! 明神さんは才能あるんだから頑張ろ!」
天使かよ……。と美咲は思った。芋くささはあるものの、掛け値なしの優しさは美咲の心を癒してくれた。
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