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幻姫
これは会社の先輩が亡くなった時の話しだ。
3月の後半…まだ雪の残る山の中で、僕達3人は完全に遭難していた。
きっかけは会社の先輩だった。
去年から渓流釣りを始めたと言う山中先輩は、渓流の解禁に合わせて僕と同僚の直井を半ば強引に連れ出した。
休暇まで使った2泊3日の旅行だったのだが、あまりの釣れなさに先輩は面目を保とうと、民宿の女将さんに注意されていた私有地の禁漁区に入っていった。
川にロープで仕切りがあり、【ここから先禁漁区】と言う立て看板があったにも拘わらず、張られたロープの片側をわざわざナイフで切断してだ。
「ほら♪これで解んなくなった♪」
そう言って先輩は醜悪に笑った。
その後も、帰り道を探し、無茶な先導を繰り返す先輩に振り回され、気付けば夕方になり、雪まで舞い出していた。
流石の山中先輩も、眉間に皺を寄せて黙って道を探しているのだが、険悪な空気が流れ始め、とうとう直井と喧嘩が始まった。
そんな僕達の声を聞き付けたのか、彼女が現れた。
「誰ぞおるのか?守人の一族の者か?」
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