結乃からのチョコ

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ユノは、敏生が高校生の時から芹沢家で飼われている茶トラの猫。もともとは結乃が見つけて、飼い主が見つかるように校内に置いていた子猫を、敏生が拾い連れて帰ってきた。結乃が子猫を包んであげていた彼女のマフラーとともに。 そして、その猫に〝ユノ〟と名付けた。そして、愛情を注いで可愛がった。「ユノ」と名前を呼ぶ度に、甘くて切ない感覚が過った。高校生の時から、ずっと…。 バレンタインが近づくに連れて、敏生の周りでもそんな話題が多くなる。 また今年も、欲しくもないチョコをもらうのに、いちいち笑顔を作って頭を下げなければならないのかと思うと、やっぱり煩わしくてたまらない。 敏生が欲しいのは、結乃からのチョコ。ただ一つだけだった。 そんな時のこと、 「ここ、空いてますか?」 社員食堂で敏生の隣の席を指して、結乃が声をかけてきた。 心の準備もないことに、敏生は以前のように固まってしまう。こんな時知り合いならば、何か取り留めもない話題を持ち出して会話するのが普通なんだろうが、敏生の頭には何も浮かんでこなかった。
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