結乃からのチョコ

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二人の間には言葉がなく、黙々とランチを食べていると、結乃と同じ部署の北山という男がやってきた。敏生は一言さえ発せられないのに、この男は気安く結乃に〝本命チョコ〟をねだり始める。 結乃と北山のそんなやり取りを聞いて、敏生は心中穏やかではなくなった。 さらに、今度は後輩の河合がやってきて、 「芹沢先輩は、どんなチョコが好みなんですか~?」 なんて、やっぱりバレンタインの話題を振ってきた。なんでも、他の部署の人間からリサーチしてくるように頼まれたらしい。 ――ヤバいぞ!ここで予防線を張っておかないと、今年も大変なことになる…! いつもは思慮深い敏生も、この時ばかりは冷静な判断ができなかった。 「高校生じゃあるまいし、バレンタインで浮かれてるなんて、どうかしてるんじゃないのか?俺は、チョコなんて大嫌いなんだよ!」 口が勝手に動いて、その言葉を放ってしまった瞬間、敏生は後悔した。これでは、結乃からのチョコも、自ら放棄しているようなものだ。 でも、その言葉を撤回するわけにもいかず、敏生は結乃の隣という貴重な場所から逃げるように立ち去るしかなかった。
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