バレンタインの憂鬱

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新しい年が明けて一カ月が経つ頃。敏生にとって、また憂鬱な季節がやってくる。 二月の真ん中の日をめがけて、女達は敏生へと一方的にチョコレートを渡してくる。 どうして自分がこんなにモテるのか、敏生には分からない。身綺麗にしているのは、他の営業マンも同じだ。女性に対して、愛想を振りまいているわけでもない。話すことは必要最低限のことだけ。会社にいる時間のほとんどは、仕事に打ち込んでいる。 営業職をしている敏生は、人と会うことが多い。取引先の会社の受付嬢、取引の際の担当者、お茶を出してくれる事務員。挙句の果てに、よく昼食の際に立ち寄るお店の店員……。 社に帰れば、同じ課の女の子、同期の友人、そして、話をしたこともない他の課の人からも……。わざわざ数えてみたことはないが、渡されるチョコレートは大体数十個には上るだろう。 特に嫌いというわけではないが、こんなに大量にあると、見るだけで胸が悪くなるし、処理にも困る。 だいたい、欲しくもないものを押し付けられて、いちいちお礼を言わなければならないのが苦痛極まりない。中には、〝義理〟と言われるものもあるらしく、それをもったいぶって渡されるその態度が我慢ならない。
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