予測不能

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「お前、頼まれてた仕事を、よくもここまで放置してたな」 多少口は悪くても、敏生は河合を見捨てたりしない。 コンペについての河合の説明を聞いて、敏生は説明以上の理解をする。そして、河合に適切な指示を出す。本気になった敏生は、河合も目を白黒させるほど本当にすごかった。 お茶も飲まず、食事もせず、資料作りに没頭すること数時間…。どうやら見通しが立ったので、敏生は後は河合に指針を示して、任せて帰ることにした。 「…え?!帰るんですか?」 河合が不安そうな声をあげる。 「もう終電の時間だ。お前と二人で泊まり込むなんて、まっぴらだからな」 そう言い残すと、敏生はオフィスを後にした。 社屋の外に出ると、更けた夜の冷たい空気が、容赦なく敏生に襲いかかってきた。 もし予定通り定時に帰れてたら、今ごろどうなっていただろう…。結乃と二人で食事にでも行けてただろうか。駅へ急ぎながら、そんな虚しい想像が頭の中に去来する。 ――そんな上手いこと行くわけないか…。 3年間どうにもできなかったことが、いきなり順調に動いてくれるわけがない。そう思い直してため息をつき、駅の改札へと向かう。……と、その時。 コンコースの片隅にたたずむ、ひとりの女の子が目に入ってきて、敏生の心臓がドクンと反応した。 結乃だった。 どうして彼女がここにいるのか、それを考えると、答えは一つしかなかった。
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