予測不能

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「……もしかして、俺を待って……?メール、見てなかった?」 敏生は結乃へ歩み寄って、声をかけてみる。すると、結乃は敏生の顔を確かめて、安心したような色を浮かべると首を横に振った。 「ううん。…メールは、ちゃんと見たの」 「じゃ…、どうして?」 敏生がさらに問いかけると、結乃は手に持っていた小さなペーパーバッグを差し出した。 「芹沢くんがチョコを嫌いだって知ってたけど…。どうしても今日、これを渡したくて…」 その中にある物。それはまさに、敏生の待ち望んでいたものだった。嬉しさのあまり、息が止まってしまう。 初めて好きになった人から、初めてもらうチョコレート。敏生はまるで表彰状をもらうかのように、ペーパーバッグを受け取った。 「…チョコ、実は嫌いじゃないんだ」 恥ずかしそうに敏生は、その事実を告白した。 そう、チョコだけじゃなく、本当はバレンタインデーだって嫌いじゃない。こうやって愛しい人が側にいてくれるだけで、こんなにも幸せで優しい気持ちになれるなんて…。 今日のことはきっと一生忘れられないだろうと、敏生は思った。この日から毎年のバレンタインデーは、敏生が心待ちにする大好きな日となった。 [ 完 ]
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