想い人

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「おい、芹沢!早く戻ってこい!」 先輩から声をかけられて、敏生はボールを急いで捕まえるとグラウンドへと戻った。散らかしたままの植木鉢のことは気になっていたが、練習が終わってから片付けようと思っていた。 しばらくして、遠くグラウンドから様子を窺ってみる。…すると、結乃がホウキを出してきて、散らかった土を掃除してくれていた。 その時の、ありがたいような申し訳ないような気持ち。そして、自分の中に起こったくすぐったいような感覚…。 きちんとお礼だけは言いたい。敏生はそう思っていたけれど、次の日もその次の日も、結乃を見かけても胸が高鳴るばかりで、結局話しかけることはおろか、目を合わせることもできなかった。…卒業までずっと。 それから、大学に進学しても、独特な女子を寄せ付けないオーラを漂わせていた敏生は、彼女なんてできなかった。それこそ、何度かバレンタインデーにチョコをもらうことはあったが、誰にも特別な感情を抱いたりしなかった。……この会社に就職するまでは。
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