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「朝ご飯、温かくてとっても美味しかったです。ありがとうございました。」
「いえいえ。」
朝、起きてきた奏に朝食をご馳走した晃は、そのあまりの健気さに思わず破顔した。
人間、お礼を言われると嬉しくなる。それも、言われた相手に好意を抱いていたなら尚更。
しかし、不意に晃はその緩めた表情を引き締め、切り出した。
「早速で悪いけど、どうして昨日、あんな場所にいたのかな?」
奏もこの質問がくることはある程度予想していたらしく、晃のまとう雰囲気が変わったことに少々驚きをみせたものの、淡々と答えてみせた。
「いえ、大した理由じゃないんです。少し両親と喧嘩してしまって。」
「それで、家をでた?」
「はい。」
「本当に?」
「はい。日の出までには戻るつもりでした。」
奏から「これ以上触れてくれるな」という気持ちが伝わってくる。だが、晃は彼の事情というものが予想出来ていた。そして、彼のことを好ましく思う気持ちもあった。
その結果、しばしば究極のお人好しとも称される晃は、奏の事情に首を突っ込むことを決めていたのだ。
「奏くん。君は、今の家族のこと、好きかい?」
「はい。こんな僕のことを引き取ってくれてとても優しい人たちだと思いますし、感謝もしています。」
「俺には、君が家族と喧嘩して家を出ていくような子には見えないんだ。」
「……そんなことは、ないです。」
「ねえ、奏くん。」
もし、君が嫌じゃないのなら。
俺は君のことを引き取りたいだなんて思ってるんだけど、どうかな?
そう思った。しかし晃の予想が間違っていて、引取り先の家族と円満に過ごしている、という可能性もある。もしそうなら、晃のこの気持ちは奏にとって迷惑にしかならない。
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