0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
旅する男
旅する男は旅を続けていた。
いつごろから旅を続けているのかは誰も知らない。ただ男が旅をしているということだけは誰もが知っていた。
男の顔すら誰も知らない。ただその存在だけは誰もが知っていた。
誰かが、男は舌を抜かれており、それでしゃべることができないのだ。男が旅をしているのは、自分の舌を抜いた者を探し殺すことだと言った。それが本当なのかは誰も知らない。
ある冬の日。男を見かけたと語る男が酒場にやってきて、旅する男のことを語ると言った。
田舎町の酒場なので、強風に煽られた雪が窓を強くたたき、壁もぎしぎしと鳴っている。男は店の片隅にある古いストーブに手をかざしながら、酒を注文する。ほかの客は早く旅する男のことを聞きたくて、男を取り囲んでいた。
店主が男にウイスキーを手渡し、男は舐めるようにちびちびと酒を飲み、大きく息を吐きだすと、ゆっくりと語りだした。
※
最初のコメントを投稿しよう!