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艶やかに光る車のフロントガラスを拭く乾いた手に、白いものがふわりと落ちてきてフッと溶けた。
長谷川要司は手を止め、無防備な視線を空に向けた。朝の灰色の空から、可憐な小片が次々と降ってくる。
初雪だ。
要司はしばしその姿勢のまま、空洞のような目で天を仰いだ。
(今年もまた、この季節がやって来た……)
それは定年を一週間後に控えたこの歳になっても、変わらず、律儀に、いっそ無情なほどの端正さでやってきて、要司を追い詰める。
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