40人が本棚に入れています
本棚に追加
「覚えてないの、お父さん」
「関口さんが知らせてくださったのよ。送別会の帰りに、車の中で目を醒ましたらあなたがいなくて、少し先の交差点で、雪の上に倒れてたって」
「……」
「急いで関口さんが救急車を呼んでくださったから良かったけど、もう少し発見が遅かったら……」
美津子が声を震わせる。
「そんな所で何してたの、お父さん」
――見てたよ、ずっと。おまえのこと。
ふと甦った声に、要司は唇を震わせ、強く目を閉じた。
「お父さん……?」
「……懐かしいひとがね、いた気がしたんだ」
熱くなる目頭を押さえ、じっと堪えていると、ぴと、と小さくひんやりしたものが、要司の頬に触れた。
目を開くと、孫の陽名がベッドの上に伸び上がるようにして、ちいさな手で要司の顔に触れている。もう片方の手にはキリンのぬいぐるみを掴んでいた。
要司はまるで初めて孫の顔を見たかのように、どんぐりのような大きな目をじっと見つめ返した。
最初のコメントを投稿しよう!