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「覚えてないの、お父さん」 「関口さんが知らせてくださったのよ。送別会の帰りに、車の中で目を醒ましたらあなたがいなくて、少し先の交差点で、雪の上に倒れてたって」 「……」 「急いで関口さんが救急車を呼んでくださったから良かったけど、もう少し発見が遅かったら……」  美津子が声を震わせる。 「そんな所で何してたの、お父さん」 ――見てたよ、ずっと。おまえのこと。  ふと甦った声に、要司は唇を震わせ、強く目を閉じた。 「お父さん……?」 「……懐かしいひとがね、いた気がしたんだ」  熱くなる目頭を押さえ、じっと堪えていると、ぴと、と小さくひんやりしたものが、要司の頬に触れた。  目を開くと、孫の陽名がベッドの上に伸び上がるようにして、ちいさな手で要司の顔に触れている。もう片方の手にはキリンのぬいぐるみを掴んでいた。  要司はまるで初めて孫の顔を見たかのように、どんぐりのような大きな目をじっと見つめ返した。
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