全盛

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京都にある旅館の一室では、女将と旅館の娘がある人物と話をしていた。 女将・お登勢は茶を入れながら言った。 「新撰組が出来てから、確かに京の町はすみようなりましたよ。 怪しげな連中もウロウロせんようになったし。けどねぇ… わてに言わせれば、あの人達の方がもっと怖い。差し引きで考えたら、昔の方が良かったような。」 すると横にいた旅館の娘が 窓に向かって寝そべっている人物に茶を差し出した。 「龍馬さん、お茶入りましたえ。」 するとその人物、坂本龍馬は 「おぅ」 とだけ答えた。 そして旅館の娘、おりょうは女将に向かって聞いた。 「でも、新撰組は顔は怖いけど、乱暴はせんのでしょう?」 すると女将は 「近頃は聞かんくなったけどね。ただもう、わては御免被りすけやわ。 関東の男はガサツっていうんですか、性に合わへん。」 するとおりょうは龍馬に向かってこう言った。 「龍馬さん、近藤勇知ってるんでしょう?」 それに反応したのはお登勢だった。 「うそぉ、龍馬さんお友達?…堪忍」 すると龍馬が言った。 「友達いうか、まぁちょっとした知り合いじゃき。」 「昔からよう知ってるみたいですよ?ねぇ」 そうおりょうに問いかけられた龍馬は、 お茶を少し飲むと昔を懐かしむかのように言った。 「はぁー、江戸におった頃は、よう顔合わせちょった」 すると好奇心旺盛なおりょうとお登勢は質問攻めかのごとく 「どんなお人なん?近藤勇って。」 「噂通り、怖いお人なんどすか?」 と聞かれ、龍馬は返答に困ったかのように 「ほやなぁ」 と流すが、それでも2人の好奇心は尽きず、 「剣の腕が日本一ってほんまなんですか?」 「ゲンコツが口に入るてきいたんやけど、見たことありますの?」 と柄にもなく早口で捲し立てる2人を見て、 「ハッハッハッハ…そやにゃぁ」 と返す龍馬を見て、 お登勢は呆れ気味に 「そやにゃあ、ほやなあ」 と龍馬の言葉を繰り返す。 そんな二人を尻目に、龍馬は昔を懐かしむように何かを考えていた。
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