始まり

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「毎度あり!」 威勢のいい店主の声が店内に響く店の中で近藤と土方は そばを食べていた。 ズルズル 蕎麦を食べていると土方が調味料の入った籠を渡してきた。 「かっちゃん、唐辛子。」 「おい、かっちゃんと言うな。」 「なんだっけ、忘れちゃったよ」 「近藤勇だ。」 近藤がそう言うと土方は納得いかないとばかりに 「フフッ馴染まねえんだよなぁ」 と笑う。 「もう決めたんだよ」 変わらない近藤を見た土方は 前からの疑問をぶつける事にした。 「なんで”いさみ”なんだ。」 「何が。」 「いや、普通”いさむ”だろう。 いさみってなんか…シラミみたいでカッコ悪いよ?」 そう言うと近藤はあからさまに顔を顰めて 「父上が考えてくれたんだ。」 そんな近藤に追い打ちをかけるように 「わかった、勇み足の”いさみ”だ。ハハッ」 と茶化していると、隣の席に座っていた男が急に話しかけてきた。 「やっぱりそうだ。 声を聞いてすぐに分かりました。」 近藤は男を確認すると、 「どうも!こちらは、練兵館の桂小五郎さん。」 とその男を土方に紹介し始めた。 「初めまして。」 桂と紹介されたその男は、土方の嫌いな部類の人間だった。 彼のことはよく知らないが、土方のセンサーが桂を警戒している。 「俺の幼馴染の土方歳三です。」 そんな土方に構わず、 近藤は桂に土方を紹介する。 続いて近藤が 「先日はどうもありがといございました。」 と礼を言うと桂は、 「いや、あんな事でよければいつでも力になりますよ。」 と一見人当たり良さそうに返事をするが、 土方はこの男がどうしてもいけ好かなかった。 そんな土方を知ってか知らずか 「人手が足りない時に道場が近いんで、よく手を貸して貰うんだ。」 と桂について説明してくる。 すると桂が土方に事の詳細を話し始めた。 「この間もね、こちらさん、道場破りに手を焼いてうちに助けを求めて来られましてね。 うちの若い連中を何人か貸して差し上げたんです」 説明を受けているはずの土方はというと 近藤と桂が話をしている時も今も話などそっちのけで蕎麦を食べ続けていた。 「本当に助かりました。」 近藤が礼を言うと 「看板持ってかれなくて良かったよ。危ないところだった。」 と返すが、 土方にはどうも含みのある 人を小馬鹿にしたようにしか聞こえなかった。
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