全盛

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1864年(元治元年) 4月29日 京都 心地よい春の宵の風が吹く京の街を 月明かりが一際美しく照らす中、 そんな京の雰囲気にそぐわない威圧的なオーラを纏う集団が足早に歩いていた… 彼らはある飲み屋の前で止まった。 小さいが、中の声を聞く限り繁盛しているようだ。 そして集団を引き連れている男は何かを見つけたような顔をして中に入っていった。 中に入るやいなや、 「主人はいるか。新撰組だ。この店しばらく借りるぞ。」 と声を発しているのこの男は、泣く子も黙る新選組副長・土方歳三(ひじかた としぞう)だった。 店中があっけにとられていると、彼、土方は引き連れている部下達に、 「始めろ。」 と店の中の物を動かすように指示した。 「はい」 と返事をしていち早く動き、 小さくもないテーブルを三つほど重ねて持ち上げている怪力は、 隊内でも一番と言えるほどの体格の持ち主、新撰組監察・島田魁(しまだ かい)。 そして運ばれて来た机にさっさと地図を広げ、作戦を考え出しているのは新撰組五番組組長。武田観柳斎(たけだ かんりゅうさい)だ。 店の客達は追い出され、 しがない飲み屋は一瞬にして新撰組の緊急会議場所に早替りしてしまった。 後からその店に来たのは、新選組局長・近藤勇(こんどう いさみ)率いる部隊だ。 その中には新選組一番組組長・沖田総司(おきた そうじ)、六番組組長・井上源三郎(いのうえ げんざぶろう)の姿もある。 近藤は、到着するや否や土方に 「桂は?」 と聞く。 すると土方は 「まだらしい。」としか答えなかった。 ある店の外では、監察・山崎丞(やまざき すすむ)らが、桂の到着を見張っていた。 すると山崎と共に桂の到着を見張っていた若手の監察が言った。 「山崎さん。私は、桂小五郎の顔を知りません。」 山崎は 「桂は用心深い男や。こないに下向いて決して誰とも顔合わせへん。それでいておもろいように前から来るもんを避ける。さすが神道無念流免許皆伝。目ん玉がここについとる」といって自分の頭を指差した。 若手の監察は神妙な面持ちでその話を聞いていた。 「俯いたまんまで早足の男がおったら、それが桂や。」 …プチ歴史解説… ○番組組長は副長助勤とも言います。 監察 偵察、密偵を行なう役職。
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