始まり

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「坂本くんでしたかぁ。」 どうやら桂の知り合いの様だ。 「はぁー、物乞いち、あんまりですろ。」 江戸の出身者でない事は言葉のなまりから明確だ。 「申し訳ない」 「まぁ確かに見えんこともないが…」 桂が坂本に尋ねる。 「試衛館という道場を知っていますか?天然何とか流の」 すかさず近藤が訂正をいれる。 「天然理心流だ!」 「そこの道場の若センセイ島崎勝太くんだ。 子千葉道場の坂本龍馬くんだ。」 桂が二人にそれぞれ紹介をすると、坂本が言った。 「金はわしが預かっっちょきます。ほれ渡せぇや。 わしがそれで蕎麦を食うちゃら。腹は減ってないけんど、 それで両方が丸く収まるんだったらわしは何杯でも食べちゃる。 ほれ、渡せぇや。」 「…」 しかし頑として桂に金を返したい近藤は納得がいかず金を渡そうとはしなかった。 坂本はそんな近藤を見て 「なら、しょうがないにゃぁ。」 というと持っていた笠と刀を置くと浴衣の上半身だけ脱いだ。 「よーし、こい!」 どうやら相撲で勝負するというのだ。 「フンッ!」「ホァッ!」 近藤と坂本が相撲を始める。 「かっちゃん!」 と土方が近藤を呼んだ。 土方が見ている方を見ると、 先ほどまでそこにいたはずの桂が近くの橋の上にいた。 そこから近藤と相撲を組んでいる坂本に大声で話しかける。 「坂本くーん!」 「なんですのー!」 「明日は大丈夫だろうねー?ほら、佐久間先生の! 遅れない様に頼むよ!君はいつも人を待たせる。」 「明け六つですろー!誰よりも早う行きますけ!」 それだけ言うと桂はさっさと行ってしまった。 近藤は相撲をやめ、 「クソっ」 と言い、桂に渡すはずだった金を道に叩きつけた。 チャリンチャリン…
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