始まり

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「いつか殺す!」 いつの間にか近くに来ていた土方がそういうと 「また物騒な事言うて」 坂本はそう言いながら近藤に投げられた小銭たちを拾いながら、 「…日本人同士、刀振り回してどうするつもりぜ。」 そう言いながら脱いでいた上半身の着物を正すと、 懐に入っている何かに気づき、 思いついたようにそれを渡しながら近藤たちに言った。 「お、そうじゃ。よかったらおまんらも一緒に来んかい?」 坂本の言っている意味が理解できず、近藤が 「は?」 と言うと 「明日、いま浦賀港にペリーの船が停泊しちょる。明日はジョージワシントンさんが生まれた日言うがで、正午に大砲ならすらしいがよ。それを見とかんと。」 「一体何者ですかその人。」 「日本で言うたら、徳川家康公みたいな偉いお方らしいぜよ。」 近藤はしばし考え、人づてに聞いた話を思い出した。 「しかしあの辺は今すごく警備が厳しくなっていると聞きましたが。」 「木挽町の佐久間象山先生を知っちゅうかや」 近藤と土方は目を見合わせて首を傾げた。 「いえ」 近藤が答えた。 「わしの砲術の先生じゃき。先生は明日、黒船を視察に行くらしい。わしらは家来としてそれに同行する。先生にはわしから言っちょくきに。」 一通り坂本の話を聞いて近藤が土方に尋ねた。 「おいどうする。」 近藤も土方も答えを決めかねているといった様子なのを見て坂本が語り出した。 「去年、藩の命令で港の警護についちょった時に、一度黒船を見たけんど。あれ見たら変わるぜよ!物の見方が。」 近藤はもう一度尋ねるように土方を見ると、土方が頷くので近藤も行くことにした。 「お邪魔じゃなければ…」 「ほいたら明日、明け六つということで品川の仲ノ橋で。遅れんなよ?」 「はい。」 「ほならわしはこれから蕎麦食ってくっから。」 そういって坂本は去っていった。
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