全盛

4/13
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「あぁ」 この男は、新選組三番組組長・斎藤一 隊の中でも一、二を争う程の剣の使い手である。 「以上だ。後は山崎達の報せを待て。」土方がそう言うと軍議は終わり、その場にはピリピリとした緊張が張り詰めていた。 京の宵街に流れる独特の音楽を聞き流しながら 笠を被った男が歩いていた。 人とすれ違うだけでも挙動不審のように見える男は、 下を向きながら早足で歩きある店の前に止まり、用心深く店の周りを見渡しながら店に入っていった。 この男こそ長州藩士・桂小五郎である。 そしてその様子を見ていた山崎達監察はあの男が桂だと確信した、若手の監察が 「山崎さん」と声をかけるが、返事がない。 周りを見ると、すでに山崎はいなくなっていた。 軍議終わり、ピリピリとした空気の中で、そんな空気をものともしない青年がいた。 「ねぇねぇ源さん聞いてよ」 語尾に音符マークが付きそうな勢いで話しているのは沖田総司。 隊内一の剣の使い手であり、斎藤一と肩をならべる実力者である。 当の本人は戦いをゲーム感覚で楽しむ謂わゆる天才剣というやつだ。 「はいはい」 そんな総司の話を聞いているのは、近藤勇の兄弟子、井上源三郎だ。面倒見がよく物腰柔らかでみんなから慕われている存在だ。 「最近ね、どんなに人を斬っても汚れない方法を考えたんですよ」 楽しそうな笑顔でとんでもない事を言う。 それに井上は質問をする。 「返り血は?」 確かにごもっともな質問だ。拳銃のない時代、人を斬ればどうしたって血が飛ぶ。 満面の笑みでそれに総司がジェスチャーを踏まえて答える。 「ふふん♪斬ったと思ったらサッと後ろに引くんです。こうやって」 すると井上は 「そんな風にうまく行くかな」 と答えると、総司は 「とりあえず今日やってみようと思って」 まるで何かスポーツの練習のように言う。 そんな会話を聞いてた土方は、 「総司。相手を倒すことに専念しろ。」 「だってぇ、汚れちゃうとそのまま飲みに行けないじゃないですかぁ」 ふてくされ気味に言い返すが、話はそこで終わった。 …プチ歴史解説… 長州 今の山口県の辺り 藩士 江戸時代、各藩に仕えた武士やその一員を表す。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!