災厄

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災厄

 その男は勇者と呼ばれていた。幾多の戦場を駆け、単騎で戦況を逆転させてきた。今生きている人間の中で最も魔物を殺してきたのは間違いなく、彼だ。  彼が生まれるおよそ百年前、海の向こう、遙か西の島国に女の子が産まれた。彼女は天性の魔法の才で瞬く間に世界中に名を轟かせる魔法使いとなった。彼女はある予言を残してこの世を去った。  この世界は残り百余年で滅ぶ運命にある。世界を滅ぼすモノに……災いあれ。  奇しくも魔女の予言と時を同じくして世界各地に新種の生物の発生が報告されるようになる。人間のみを襲い、食らうそれらは総じて「魔物」と呼ばれた。  魔女が予言した、「世界を滅ぼすモノ」は魔物であると宣言され、人類が魔物と戦争を開始して百年。数多の国と人命を失いながらもヒトはかろうじて生き延びていた。  勇者は生まれた時から名前で呼ばれることは無かった。勇者と呼ばれることは最初から決められていた。彼がその圧倒的な強さで幾千、幾万の魔物を屠り、やがて魔物を統べる魔王を倒すことも。  人間が魔法と科学、そして呪術の限りを尽くして百年叶わなかった悲願を勇者は初陣からわずか数ヶ月で達成した。     
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