君はいつも本を読んでいた

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ぼんやりとした視界が、だんだんとはっきりしていく。 「おい、起きろ!!」 「うえ!?」 ぐい、と肩を揺らされて思わず情けない声を上げる。 何すんだよ、と抗議の声を上げようにも、怒った様子の友達の前では言葉が引っ込んでいく。 「いつまで寝てんだよ、もう帰るぞ」 「あー…ごめんごめん」 そういえば、今日はこいつの委員会が終わるのを待っていたんだった。 体を伸ばすと、ばきばきと関節の鳴る音がする。 俺はいったいどれくらい寝てたんだろうか。 机の横にかけた荷物をとって、立ち上がる。 すると、ふ、と何気なく後ろを振り向いた。 春の暖かな風が教室に吹き込んで、僕の髪を揺らす。 窓側、教室の一番後ろの君は その風をうっとおしいと言わんばかりに眉をひそめて、ページをめくる。 赤い色の眼鏡の奥の瞳はただ本を見つめている。 白くて、細い指が、本を押さえている。 いつもどおりの光景。 それがなんだか、映画のワンシーンのように、そして長く、長く感じた。 あんなに、綺麗な子だったっけ。 いつも目立つことのない、話したこともない子に心臓がどきどきと早鐘を打つのを感じた。
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