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(4)
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遠く南や東の国には、「男の部分」を切除する刑罰があるという。
もしくは「それ」を、主君への忠誠の「証」として、または自らを無害化するために行うこともあるのだと耳にした。
ならば、己も同じ目に――
それで自身の忠義が示せるというのならば。
だが、そうしたところで。
代わりに、王子の失われた機能が「戻る」わけではないのだ。
もし、そうであってくれるなら、王子の傷を元どおりに癒せるのなら。
この身体など、いくらでも切り刻んで見せようものを――
そして。
今はただ、むしろ死にたいと。
己など、もう塵芥のように消え失せてしまいたいと。
誉れ高き黒の騎士、近衛の長シグルドの頭を蝕んでいくのは、そんな思考だけだった。
*
スードリアントの暴動を鎮圧したのちは、しばし穏やかな日々が続いた。
シグルドは静かにたゆたう日常へと、自らの苦悩を懸命に紛らせる。
しかし気持ちは、しばしばぐらついた。
王城の傍に深く穿たれた谷底の悪霊に呼ばれ、引き込まれそうになる。
昏い谷へ身を落とさんと、籠塔の石段を幾度登っただろう。
そんな自らの弱さを。
誰にも。
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