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 それはあたかも、騎士の手を拒絶するかのような、無意識の動きに見えた。  シグルドは、自らの腕を素早く引き戻す。そして、 「アルトナル様……貴方は騎馬に剣術にと、ただ荒事にのみ明け暮れていればよい近衛(われわれ)とは、まるで御立場が違う。政務も多忙でいらっしゃる御身。まだ傷も癒えきってはいないはず。どうぞ、くれぐれも御身体をおいといになられて」と、ただひたすらに誠実な響きで、幼い頃から仕える若き主に訴えた。  すると王子は、ごく力強い仕草で体を起こし、 「無論、政務をおろそかにすることなど、あってはならぬ……」と、低く呟いた。    そして、微塵の疲れも見せぬ風に首筋を伸ばし、「近衛の長よ。こたびの手合わせ、大儀であった」と言い置いて、上衣の裾を涼やかになびかせながらシグルドの前から立ち去った。  *  近衛の長たる騎士シグルドは、王城の敷地内の公邸に住まっていた。  「邸」とはいえど、それはせいぜい三部屋程度のささやかな家だ。  その役目上、むしろ、公私の別なく近衛長を王城に置くための「詰所」とでもいう方が正確かもしれない。  それでも、その「公邸」では王城の下働きが食事や家事をみてくれたから、独り身のシグルドにとっては願ってもない住み家だった。     
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