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何より、そこに居ればどんな時でも、すぐさま、王と王子のもとへと馳せ参じることができる。
そして、一日の任務を終えたシグルドが、その家で胸当てと籠手をくつろがせていると、アルトナルからの使いがやって来た。
それは、王子の数少ない従僕のひとりだった。
元々、アルトナルは自らの身の回りのことを、あれこれと召使に任せる人間ではなかった。
いくさ場に出れば、いちいち小姓を侍らせる余裕はない。
身支度のみならず、馬具も武具も、アルトナルは一通り、自らで整えることができたし、常から、そのようにすることが多かった。
だから王子の従僕とはいえど、その仕事内容は、ほぼ文官たちと変わることはない。
こうやって、まれに「私的」な言伝てを運ぶぐらいが、「従僕らしい」数少ない勤めだった。
「アルトナル様におかれましては、シグルド様に、今から城内の御私室へとお運びいただくようとの仰せで」
「今から、王子の部屋へ?」
「はい、シグルド様。たまには共に飲まないかと、そのように伝えよと。『昔のように』と」
察すべきことを察しとったかのように、シグルドは、ひとつ瞬いてかすかに微笑む。
そして、
「あい分かった。王子には『仰せの通りに』お伺いすると、そう申し上げてくれ」と、ごく手短に応じた。
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