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ある程度の高さまで登ると、シグルドは、自らの重みに耐えられそうな枝を慎重に選び、それを伝う。
そして反動をつけ、渡り廊下の支え柱へ飛びついた。
「やれやれ……」と、思わず歴戦の騎士の口から溜息が洩れる。
「さて、次はどうだったか」
独り言を呟きながらシグルドは、支え柱の間に作られたごく細い平らな場所を、綱渡りめいて進んで行った。
*
最後の難関。
外壁との隙間を抜ければ、ちょうど王子の寝室の出窓の下に出る。
シグルドが、そこをよじ登ろうとしたところで窓が開いた。
アルトナルの右手が差し出される。
シグルドと王子は、互いに手首と手首をしっかりと掴んだ。
絶妙の間合いで、ぬっと、シグルドの身体が引き上げられる。
シグルドは身体をかがめて窓枠をくぐり、王子の部屋へと入った。
「どうだった、シグルド、あの『抜け道』は? まだ使えるものだったか」
ごく屈託なく笑いながら、アルトナルが問いかける。
「別段、問題はないようでした」
そう応じて、シグルドもまた、やんちゃな微笑みを見せはしたが。
もはや、臣下の身としての王子への口調だけは、変えようもなかった。
少年時代のように、屈託のない言葉で話しかけることなど、今や近衛の長たるシグルドには、もうかなわない。
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