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(6)  久方ぶりに、思い出話に花が咲いた。    シグルドが元服し、主と臣下としての線引きが、そこでハッキリと区切られてからは。  ふたりは、けじめを保った、ことさらによそよそしい日々を長く過ごした。  アルトナルが父の代理として戦地に赴くようになれば、騎士のシグルドとの距離は、ふたたび近づいた。  頻繁に戦や防衛の話で膝を交えるようになったが、それは、幼い頃とはまったく質の違う近しさだった。  だからその宵、ふたりは、本当に久しぶりに幼かった頃を懐かしんだ。  王子は人払いをしていたから、酒の追加だ肴だと、世話を焼きにくる召使の出入りも一切なく、アルトナルとシグルドは大いにくつろぎ、盃はことのほか進んだ。  思い出話も一巡し、時に同じ話の繰り返しになりかかった頃。  常に姿勢正しいアルトナルが、ふと、長椅子の座面に頽れるようにして横たわった。 「王子よ……今宵は、いささかご酒が過ぎましたか」  シグルドが、すぐさま立ち上がる。 「今、水などを」 「かまうな」  短く言うと、アルトナルはシグルドの手首を取って引き留めた。 「……少し、酔いが回って眠いだけだ。いいから、シグルド、ここにいて飲んでいろ」     
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