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神々に愛された王子アルトナル。
今回の、黄金の鷹の目をした若将の出陣は、愚かしいスードリアントに対し、この国の威信を見せつけてやるのに、まさしく打ってつけだ、と――
確かにスードリアントの蜂起は大したものではなく、一日もあれば抑え込める程度とみられていた。
けれども、ここ数日続いていた雨で、地面はぬるみ切っている。
さすがに地の利、スードリアントは、このような泥まみれの戦場に慣れっこの様子だった。
戦況に影響を及ぼすほどではなかったが、いまや戦闘は、相当に取り散らかっていた。
その混乱のさなか、近衛の長シグルドは今、自軍の将である王子の姿を見失ってしまっていた。
王子アルトナルの背を護る。それがシグルドの務め。
ほんの一瞬たりとも、目を離すわけにはいかない。
「アルトナルさま……!」
乱れ来るスードリアントたちの太刀筋を籠手でなぎ払い、振り注ぐ矢羽を切り落としながら、シグルドは王子の濃紫の戦着を探し、視線をさまよわせる。
そしてシグルドは、川縁の民らしい屈強すぎるほどの体格の男と切り結ぶ王子を見つけ出した。
手綱を引き馬の鼻先の向きを変え、シグルドは王子のもとに馳せ参じる。
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