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「シグ…ル……ド?」
「はい、アルトナル様、ここに」
「夢…を見ていたか、我は」
ひとつ溜息をついて、アルトナルが長椅子から身体を起こす。
そして、自分がシグルドの手首をきつく握りしめていることに気づき、無言で指を緩めた。
「お加減は?」と、シグルドは水差しから器に水を汲み、御前へ差し出す。
「いや、別段大事ない」
アルトナルは、乱れかかった髪をかき上げながら、シグルドの差し出した水を受け取った。
「今夜は私が至らず、つい王子に酒を勧め過ぎました。申し訳ござ…」
「謝ることなどなかろう!」
アルトナルの声音がこわばった。
「お前を呼んだは我だ。我が……呼んだのだ。それに、今宵はいつになく愉快な刻を過ごした。我は愉しんだ。シグルド、お前は違ったか」
「いえ、王子……私もとても愉しく、だからこそ、アルトナル様の御体調も考えぬまま、つい盃を重ねて」
「だったら、良いではないか。もう」
「アルトナル様、畏れながら申し上げたく。このところ、あまりにも武術の鍛錬が多すぎるのではと。まだまだ戦傷が癒え切ったともいえぬ……」
「シグルドよ」
王子が、騎士の話を強引に止める。
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