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(8)  さて、どう帰ろうか――  シグルドは思案する。  いや。  別に、悩むほどのことでもないのだと。  いくらかの酒で麻痺した頭ではあったが、シグルドにも、それ位は分かっていた。  分かっていながら、わざと迷ってみたのは、やはり多少の酔いが残っていたせいもあるだろう。  来るときに使った「道」で帰るのは止めた。  酒の入った身体で暗闇の中、あえて、あんな危なっかしい「いたずら」を繰り返すこともない。  今のシグルドは、近衛の長として城の構造を細かく知っていた。  なにも、木に登ったり、渡り廊下の下を這いつくばったりと、そのような真似をせずとも、王子の部屋へひそかに出入りする道筋は思いつく。  思いついた、その新たな「抜け道」を通り、シグルドは城の敷地にある「近衛隊長の公邸」へと帰り着いた。  自らの手で玄関を開け、シンと明かりのない無人の室内に入ると、シグルドは、ひとつ溜息をつく。  近衛の長となり、この公邸に住まい始めた頃。   一時は、住み込みの従者や使用人がいたこともあった。  だが、なにかと落ち着かない心持ちがしてどうしようもなく、シグルドはその者たちに、いとまを出した。今では、戦さ場の野営の折のみ、身の回りの世話のための若い兵士を傍に置いていた。  窓からは、月明りが差し込んでいる。  明かりを灯さずとも、ザッと掻き起こした暖炉の埋火のみで、視界は十分だった。  寝衣に着替えてくつろごうと、シグルドは服を脱ぐ。  そこで初めて、上衣に入れた王子の――アルトナルの銀の首飾りに気づいた。    なにかに紛れないようにと預かったまでのこと。  すぐにお返しするはずだったのだが――  別れ際の言い合いで、すっかり取り紛れてしまった。 *
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