(9)

1/2

52人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

(9)

(9)    まつろわぬ川辺の民スードリアント。  その蜂起を、ごく短期間に鎮圧した王子。  その御名を称える声は、民の間で、さらに強く高まった。  神々に愛された王子、いとも気高きアルトナルと。  みなが口々に謡い称える。  そして望まれるのは、その世継ぎであり。  婚姻であった。  臣会(シング)では、折に触れ、高官たちが王子に水を向ける。  初めのうちこそ、さりげない風を装っての問いかけだった。  だが次第次第に、王子アルトナルの婚姻について、会で明確な言及がなされるようになっていく。  父王は、一貫して穏やかだった。  臣会一同から、強く意見を求められてもなお、 「そう急がずとも。アルトナルにも考えがあろうから」と繰り返す。  それが、もとからの気質によるものか、加齢による気迫の減退なのか。  息子であるアルトナルの目から見ても定かではなかった。 「いにしえより国の礎として、(まつりごと)を支えし臣会(シング)。その賢老たちよ」  アルトナルの声が議場に響く。  けっして、大声ではない。  けれども、その声は気高く深く、空気の色を変える。 「皆の考えは、我も十分に解している。臣会よ、我にしばしの猶予を与えよ。国のため必ず良い決断を下そう。我を信じ、今しばらく待たれよ」  静かに、だが確信に満ちたアルトナルの言葉は、神々への詠唱のようでもあり、神託そのものですらあるような神々しさで輝いていた。  臣会の出席者一同が、息を飲み、圧倒され、そして無条件の信頼と恭順の意を、アルトナルに捧げる。  ――神々に愛されし黄金の瞳。いとも気高き王子アルトナルよ、と。 *
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加