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あの「粉薬」は、いうなれば「偽薬」だ――
痛みを紛らわせる薬は、その効力が高ければ高いほど、身体への影響が大きくなる。
これまでの薬ですら、胃の腑やはらわたの内を傷つけるおそれがあった。
飲み続ければ食事も減り、王子の身体を弱らせることになろう。
さらには、心の臓への負担も大きかった。
今回、王子にお渡しした「薬」の効能は、鎮心、気血や滋養の補充。
今までの「痛み止め」が「まったく効かない」とは考え難いことだった。
あれは、濃度によっては北の黒大熊ですら、昏睡させることができるものなのだから。
おそらく――
王子の痛みの大半は、御心の抑圧、不安から生まれいずるものであろう。なれば。
「痛みに効く」と思し召しながら服薬なされば。
「そうなる」はず。
書き物の手を止め、薬師は、しばし視線をさまよわせる。
王子アルトナルに必要なのは、痛みを紛らわせる「薬」などではない。
「薬のみ」では、健やかさは取り戻しきれない。
なにより大切なのは「養生」だ。
「休ませる」しかない。
心も身体も。
しかしながら薬師とて、王子にとって「それ」が――
「真に養生すること」が、おそらくひどく困難であろうことも、十分に理解していた。
現王の気力は潰え始めている。
王子アルトナルの責務は増すばかりだ。
そして、王子に対する臣会からの期待も膨らんでいた。
それはもはや、賛美に近いまでの信頼であり、どちらかと言えば政治に疎い薬師の目から見ても、あまりに過度なものに思えた。
まさに「依存」といってもいいほどに――
臣会は、国は。王子アルトナルに頼りすぎているのではないか。
そんな危惧を抱きかねないほどに。
王子の「傷」は、じきに癒え切るだろう。
薬師も、それは確信できた。
「国で随一」といわれる、卓抜の医師だ。その見立てに間違いはない。
つまり問題は、「傷そのもの」ではなく。
それは――
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