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(11)  あの「粉薬」は、いうなれば「偽薬」だ――    痛みを紛らわせる薬は、その効力が高ければ高いほど、身体への影響が大きくなる。  これまでの薬ですら、胃の腑やはらわたの内を傷つけるおそれがあった。  飲み続ければ食事も減り、王子の身体を弱らせることになろう。  さらには、心の臓への負担も大きかった。  今回、王子にお渡しした「薬」の効能は、鎮心、気血や滋養の補充。  今までの「痛み止め」が「まったく効かない」とは考え難いことだった。  あれは、濃度によっては北の黒大熊ですら、昏睡させることができるものなのだから。  おそらく――  王子の痛みの大半は、御心の抑圧、不安から生まれいずるものであろう。なれば。  「痛みに効く」と思し召しながら服薬なされば。  「そうなる」はず。  書き物の手を止め、薬師は、しばし視線をさまよわせる。  王子アルトナルに必要なのは、痛みを紛らわせる「薬」などではない。  「薬のみ」では、健やかさは取り戻しきれない。  なにより大切なのは「養生」だ。  「休ませる」しかない。  心も身体も。  しかしながら薬師とて、王子にとって「それ」が――  「真に養生すること」が、おそらくひどく困難であろうことも、十分に理解していた。   現王の気力は潰え始めている。  王子アルトナルの責務は増すばかりだ。  そして、王子に対する臣会からの期待も膨らんでいた。  それはもはや、賛美に近いまでの信頼であり、どちらかと言えば政治(まつりごと)に疎い薬師の目から見ても、あまりに過度なものに思えた。  まさに「依存」といってもいいほどに――  臣会(シング)は、国は。王子アルトナルに頼りすぎているのではないか。  そんな危惧を抱きかねないほどに。  王子の「傷」は、じきに癒え切るだろう。  薬師も、それは確信できた。  「国で随一」といわれる、卓抜の医師(くすし)だ。その見立てに間違いはない。  つまり問題は、「傷そのもの」ではなく。  それは――    *
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