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後ろにひとまとめにして括り上げている長い褐色の髪が、一筋はらりと、薬師の目に落ちかかった。
治療の邪魔であろうと、それを耳へとかき上げてやった時。
シグルドは初めて、薬師の瞳の色が、彼の主である尊き王子アルトナルの鷹の瞳と、ごくよく似た色合いをしていることに気づく。
だが、薬師が鋭く研いだ小刀を手にしたのを認めると、とっさに手首を掴んで止めた。
「吾が手を…放しなさい、騎士シグルド」
薬師がきつく言い放つ。
「このままでは王子は血を失い過ぎる。御命にかかわります。潰えた部分を切り取って、早く傷を焼かなければ」
「だが……」
薬師の言わんとすることは、シグルドにも理解できた。
「他」に深手もないのだ。
このままでは、助かる命をみすみす失わせるやもしれないと。
薬師の手首を掴むシグルドの指の力が、ふわりと緩む。
しかし、「その場所」を切り落とすなど……。
そんなことは。
「駄目だ、止めよ、薬師」
そうシグルドが口にした瞬間。
薬師の手にした小刀は、微塵の惑いもなく、血まみれの肉塊と化した陰茎のかなりの部分を見事に切り落とした。
続けて、子種の袋の潰えてしまった部分にも刃を向ける。
歴戦の騎士であるシグルドだ。
むごい戦いならば、いくらも経験がある。
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