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 騎士シグルドが、険しく眉をひそめて薬師を睨みつけた。 「そうだ、父王にも洩らしてはならぬ」  アルトナルは、すぐさまそう応じる。そして、 「誓え」と。  その黄金の鷹の瞳で、シグルドと薬師を見据えた。  *  現王ラクナルの后、王子アルトナルの母ヘルカは、早世だった。  少女時代は、春の野に咲く可憐な小花のように愛らしく。  后となってからは、その美しさを大輪に開花させた女性。  国王ラクナルは元々、切れ味の鋭さを孕むというよりは、温厚で敬虔な人間であった。  壮年も終わり間近に娶った若く美しい妻を、はやり病であっけなく失った後。  王は、その失意を隠そうとはしなかった。  徐々に気力をすり減らしていく父王を、磨き抜かれた砡のような王子アルトナルと比し、「凡庸王」と不敬な陰口が囁かれることもあった。  王ラクナルの望みは、死した妻を偲び、穏やかに神々に祈る暮らしであったのだろう。  だが、国を取り巻く事情は、そこまでの安穏を王に赦しはしなかった。  けれどもそんな王と政に対し、家臣たちにも国民にも、失望や不安はさほどなかった。    それはひとえに、王子アルトナルの存在ゆえに他ならなかった。  たぐいまれなる資質を備えた、若く美しく逞しい後継者があればこそ――     
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