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「しもさん、ちょっとこれ見てください」
「んああ?」
「さっき飯食いに行ったじゃないすかあ。そん時リュックを椅子に置いてトイレ行ったんすけど」
「ああ行ってたな」
「そん時なんかこれを入れられたみたいで」
街角で配っているポケットティッシュに挟まれた広告の様な大きさの紙切れに文字が書かれている。
「ちゃんと閉めて行かないから…」
言いかけた言葉を飲み込み、下柳は紙切れを凝視した。
「これは…。編集長!」椅子を蹴って『編集長』と書かれたプレートのある机に向かう。
「なんだようるせえな」
「嶋さん、これ、見てください」無理矢理自分を落ち着かせて下柳は紙切れを渡した。
「これは…本当か?」
「わかりません。高丸のリュックに入れられていたそうです。どうしますか?」
「ううん」嶋は顎に手を添えてしばらく考え込んでいたが「三日だ。三日間だけ行け」
つまり三日間の費用は許可すると言う意味だ。
「わかりました。まる!行くぞ」
下柳は高丸に声をかけ、取材道具を詰め込んだ自分のリュックを背負うと高丸を待たずに部屋を飛び出した。
「待ってくださいよ!」
高丸も整備中だったカメラのレンズを急いで仕舞うと後を追った。
二人が部屋を飛び出すと、記事をまとめていた他の記者が嶋に近づいて聞いた。
「嶋さん、なんすか?あれ」
「これだ」と紙切れを机に広げて見せる。
「これは…。谷藤綾と古村たかしの密会って…。古村って新進気鋭の若手作家ですよね」
「ご丁寧に密会場所のホテルとレストランの名前まで書かれている」
「あいつらはそこへ?」
嶋は返事をせずにパソコンに向き合った。
「たしか谷藤はドラマの撮影が終わって一週間のオフですよね?古村は?」
「昨日、海外ロケを終えて帰国している。そして明後日の夜には海外公演のリハで日本を発つ」
「なるほど、それで三日間ですか…」
どう出るかな、と嶋は期待と不安を混ぜたような雲を見上げて呟いた。
「シンシンキエイノワカテサッカねえ。キテレツの道具みたいな響きだな」
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