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谷藤綾は久しぶりに朝からのんびりとソファーに座っていた。ドラマの撮影が終盤から夜中のシーンをメインに進められ、毎日のように日が登ってからの帰宅だったからだ。
旦那は自分で朝ご飯を食べて弁当を用意してから出勤して行った。
「あやこの分も作っといたから、昼飯」
「あら!ありがとう」
ガレージから出ていくトヨタ・カムリを見送りがてらゴミ出しに家を出る時は谷藤綾の顔になる。家に入り綾子に戻って旦那がやりかけていた家事を終わらせる。
マネージャーに録画を頼んでおいた自分や先輩俳優の出演しているドラマなどを流しながら、友達やら後輩とLINEで話す。
昼は久しぶりに高校の時の同級生とランチをしたり、ショッピングを楽しんだ。友達といる時は表面は綾でも意識は綾子として過ごせる。
夕方になりスーパーで買い物をして帰ると、時間を掛けて晩御飯を用意した。
旦那はだいたい20時に帰宅する。軽くワインなどを飲みながら一時間。普通の家庭を演じている気持ちになっていた。高校の同級生と結婚をした女優、谷藤綾。旦那はベンチャー企業を立ち上げて年収云億。それなのに八王子の庶民的なマンションに住む。
これが善人気取りだと取り上げられたこともあったが、谷藤綾に密着したドキュメンタリーで旦那が「僕は高いところが怖くて、それに人混みも苦手で…」とはにかむ笑顔が好評で、一夜で"庶民派"とレッテルが貼り直された。
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