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休日、二人をつけることにした。夏木にどこで会うかは聞き出しているが、後をつけることは言っていない。 その喫茶店に向かう途中の交差点に差し掛かった時だった。横断歩道の向こう側に、遠目からでもお似合いな美男美女が目につく。女の方が男の方に腕を絡ませているが、男は迷惑そうにしている。カップルの痴話喧嘩だろうかと思い、よく見てみると正体は夏木と朝井だった。 「喫茶店に着く前に会ったのか」 焦りが声に現れていた。それに後押しされて、信号が青に変わった瞬間に走り出す。 ここで見つかったらつけていたことがばれるとか、ばれたら何て説明するのだとか冷静に思う気持ちもあったが、それ以上に二人が一緒のところを見ていたくなかった。 「夏木、愛美」 息を切らしながら二人を呼ぶと、先に夏木がこちらに顔を向ける。 「先輩」 それに反応して、朝井も振り向いた。龍前に気づくと、驚くほど冷たい顔をする。 「あら、あなただったの」 「どういうつもりなんだ、愛美。そんなに夏木がいいのか。俺の大事な後輩にまで手を出すのか」 朝井が詮索されるのを嫌うことも、そうしたら朝井とは別れることになるということも忘れ、溜まったものが洪水のように溢れ出す。その内容が、だんだん飛躍したものになっていくのを感じたが、止まらなかった。 「夏木は俺が好きなんだ。朝井は男なら誰でもいいんだろ、わざわざ夏木に手を出すなよ」 終いには夏木を独り占めする台詞がするりと出てきて、困惑する間もなく、ようやく自覚した。 それを見た朝井がバカにしたように笑い、夏木の腕に絡みついた。 「あんた、男が好きになったのね。残念だけど、この人は私がもら――」 最後まで朝井が言う前に、夏木が動いた。朝井の手を振りほどき、龍前を抱き締め、その唇にキスをする。 悲鳴が上がった。それを背中越しに聞きながら、夏木と手を繋いで歩いた。街中だったが、恥ずかしくもなんともなかった。 呪縛から解き放たれ、羽のように体が軽くなっていた。 End
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