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あんなところに行かなければ良かった……
ダム沿いの国道を左に折れ、細い山道に入る。九十九折りを登り切ると、突然視界が広がった。路肩の空き地に車を停め、山肌の紅葉を眺める。ここは地元民もあまり知らない、紅葉狩りのスポットだ。
11月の終わり、ボクは由美を連れ、生まれ故郷の山間をドライブしていた。
「さっき、脇道のところにトンネルがあったの分かった?」
「えっ? 気付かなかったけど……」
「帰りにちょっと寄ってみようか……。夏休みになると、よく肝試しをしたんだよね……」
中学生の頃、地元の仲間と何度も通った場所。夜中に探検したことだってある。ボクは自分の想い出の場所を、由美と共有したかったのだ。
"入るな! 崩落の危険あり!"
6年ぶりの訪問。残念なことに入り口が金網でふさがれ、注意書きが括り付けられている。ボクは金網に指をかけ、トンネルの中をのぞき込んだ。
30メートル先の出口から差し込む光で、湿った岩肌が浮かび上がっている。なるほど、地面にはコンクリートの塊が、いくつも落ちている。
「なんか気味が悪い……」
由美が、ボクの上着の袖をつかんだ。
「ここで消えちゃった友だちがいるんだよね……」
もちろん冗談だ。そんな噂を聞いたことがあるだけだ。
やめてよ!
予想外に大きい由美の声に、逆にボクが驚かされた。
「うっ、ウソに決まってるじゃん!」
由美の顔が、土気色に染まっている。
「帰る……」
小声でそうつぶやくと、由美は踵を返した。
「ご、ごめん……」
由美はどちらかというと、物静かで大人しい性格。感情を表に出さず、ノリも悪い方だ。
でもボクは、初めて出会った時から、由美に特別なものを感じていた。どこか懐かしい感覚、とにかく、一緒にいると落ち着くのだ。
ふふふ……
助手席にいる由美が笑っている。てっきり気分を害したと思ったのに、意外な反応だ。ハンドルを握りながら、ボクはミラー越しに由美を見た。
ぶつぶつ独り言をつぶやきながら、クスクス笑っている。
「どうしたの?」
由美はフロントガラスの向こう側に、視線を巡らせた。こんな表情の由美を、見たことがない。
「ううん、なんだか急に楽しくなってきて……」
「ふーん……」
妙な気分だ。由美らしくない反応は、不安をかき立てるだけだ。
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