第1章

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 約二メートルあるコンクリートの薄暗いバックルームの隅に、 冬の制服を着ている男性が、 こちらに背を向けてぼんやりと立っている。 強烈な恐怖感に覆われながらも、 多分震えているだろう声で尋ねた。 「あ、 あ、 あなたは何の用があって、 そ、 そ、 そんな所にいるのですか?」 「…………」   勇気を振り絞っていったのに、 その男性はひとことも言葉も発しないし、 身じろぎ一つしないで、 相変わらず背を見せて立ったままだ。 電話で館内放送ができるので、 開店以来からおられる店長なら後ろ姿でも誰だか分かるだろう、 と思い、 店長呼ぼうとして送受器を握ろうとしたまさにその時。  突然、 その男性が振り返った。
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