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「目を閉じると思い出すなあ。キラキラ輝くイルミネーションに夜中までやってるコンビニ」
さくと出会ったのもコンビニだった。
科学者だった俺は夜中まで研究に没頭し、腹を空かせてコンビニにかけ入る日々を送っていた。
「お疲れ様です。いつも通り、熱めにあっためておきましたよ。」
彼女は微笑んでいつも暖かい言葉をかけてくれるのだ。
高校2年生の少女に
俺が恋をするまでそう時間はかからなかった。
最初は腹を満たすために通っていたコンビニに
心を満たすために通い詰めていた。
「あの、これ作りすぎちゃって、みんなには内緒でよかったらどうぞ」
あるとき、人がまばらになったのを見計らってレジに向かうと、
彼女がかわいらしい桜柄の弁当箱を差し出してきた。
「いいんですか?うわあ。どうしよう、嬉しいです」
俺は嬉しくて何度も礼を言いながら弁当箱を受け取った。
中には健康によさそうな煮物や卵焼き、かわいいタコサンウインナーが入っていた。
「うまそう!研究室にかえったらさっそくいただきます」
「研究室?なんの研究をされているんですか?」
「俺は核シェルターと人類保管の研究をしているんですよ。今は情勢が不安定なので、ほとんど研究所にかんずめで、こういう食事はいつぶりだろう。本当にありがたいです。」
思えばこの時に俺と彼女の運命は決まったのかもしれない。
それからも彼女は毎日俺に弁当を作ってくれて、俺はその弁当を空にしてお礼の手紙を彼女に渡す。
たったそれだけだったのだ。
お互い愛の言葉を口にすることもなく、それ以上踏み込むこともなく。
心地よい距離を保って幸せな日々をすごしていた。
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