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二月の山の空気はまだ冷たく、肺が一気に凍える。だが夕闇が迫るオレンジの空からは一日降り注いだ太陽の暖かい味がした。
そして一瞬、タクヤを取り囲むすべてのモノの時間が止まった。
タクヤは目を見開き、足を大きく広げると両手を目の前に突き出して、腹の底から声を出す。
「加ぁぁああああ……」
腰を落として重心を低くし、広げた両手の親指同士、小指同士をひっつけて右脇腹の横に引き戻す。そして凪いでいた感情をゆっくりと解き放つ。
「目ぇぇええええ……」
引き戻した両手を半回転させ、脳天と丹田に込めたエネルギーを循環させていく。解き放った感情と相まって、体温は急激に上昇していく。
「破ぁぁああああ……」
半回転させた両手をゆっくりと元に戻す。循環させたエネルギーが手のひらに集まるように意識を持っていく。膨らんだ感情を気力で体のエネルギーと融合させていく。
(まだだ、もっと集中しろ!!)
「目ぇぇええええ……」
熱が集まった両掌が尋常じゃなく、熱い。だが追従するように感情と一体化したエネルギーが体中からどんどん集まってくる。
(まだだ……まだだ……まだだ、もっと、こい!!)
湧き上がるエネルギーを全て手のひらに集中させると、タクヤの両手は自らが発する光で輝いた。
(今だ!!)
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