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三千年の時を超え
「……だってそりゃあ、今日は特別な日だからよ」
不意にくだらないことを言われたので、私は思わずバイクを停止させた。
視界には荒野が広がっていた。
何も無い。街も標識も、かつてはそこに存在していたはずのアスファルトの国道も。そこにあったはずの全ての人工物は消滅していた。
ただあるのは、砂嵐の巻き起こる茶の大地、禿げた山脈、ポツリポツリと立っているアリシカの木々のみ。永遠に続くような彼方まで、自然そのままの大地が広がっていた。その無害な世界を私は虚しい気持ちで見つめていた。
背後を振り返ると、ふたつの恒星が地平線に落ちようとしていた。
その軌跡を目で追いながら、言葉を返す。
「……なあにが特別な日よ。昨日もそんなこと言ってたじゃない。昨日も一昨日も、その前の前の前の日も言ってたわ。だけれど世界はなんにも変わらない。毎日同じ景色、同じ会話。特別なことなんて何ひとつ起こらなかった。……なんで今日が特別な日なのか、説明してみなさいよ」
私はすぐ後ろの、タンデムシートに括り付けたPCをバンと叩いた。するとPCの背中に触れている面がほんの少しだけ熱を持つ。
「ちょっと、乱暴しないでよ! ……ほら、前を見て。惑星『キイラ』が今日は一段と輝いている」
私は前方を見返す。
私たちが進む道を示す一等星。たしかに、沈みかけた恒星の輝きに負けじといつもより光を放っている。
でも、それが私の問いの答えになっている気はしなかった。
「だから?」
「だから。今日こそは特別なのよ。今日、会える気がするのよ」
「……AIのくせに、リリーは理論的なことを何ひとつ言わないわね」
ハンドルに巻きつけたスピーカーから、「それはサーシャも同じじゃない」と声がする。私は呆れ、再度バイクを発進させた。
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