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第一章
白い布団の中で、古角柊鬼(ふるずみとうき)は大きく息を吸う。
匂うのは畳の香りと、太陽の光によって焦げた空気の独特な匂い。だが柊鬼はそれが嫌いではなかった。
代々受け継がれてきた古い屋敷だ。時代遅れだと笑うやつもいるだろうけれど、この静寂さを纏う此処は大層居心地がいい。
「そろそろ起きてください、柊鬼様」
むしろ、起こしてくるこの声の方が嫌いである。
柊鬼はその声を無視し、息を吐き出しながら頭を枕に擦りつけ眠っているふりをするが、これは毎日行われる攻防であるため相手には全く効果はない。それを証明するかのように相手はこれみよがしに大きな溜息をついて「どちらがいいでしょう」と言う。
「襖を開けて眩しい太陽の光を浴びるか、子供のように布団を剥がされ畳の上に転がされるか」
お好きな方をお選び下さい。
あくまでも起こすことを宣言する相手に柊鬼は「あ゛ー、わぁったよ」と、布団を思い切り剥げば、正座をし、ニッコリと微笑んで此方を見下ろす与波天斗(よなみたかと)の姿がそこにあった。
「おはようございます、柊鬼さま」
「・・・あぁ。はよ、天斗」
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