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柊鬼は頭を掻きながら上半身を起き上がらせ、布団の上で胡坐をかく。そして人差し指をチョイチョイ、と動かし与波を此方に来るよう指示すれば、彼は再び大きく溜息をつき「いつも申し上げておりますが、」と先程よりも低い声で言葉を吐き出す。
「ちゃんと朝食と共にグラスで用意してありますので、ここで飲む必要はないかと」
「いつも言っているが、時間が過ぎたものは美味しくねぇんだよ」
「確かにどんなものでも美味しくいただきたいという気持ちは分かりますが、それでも―――」
「毎回煩せぇよ、お前」
彼の言葉を遮り、腕を伸ばす。そしてその手で彼の着物の襟首を掴み、強引に此方に引き寄せた。
「お前は黙って俺に血を寄越せばそれでいい」
―――なぁ?与波天斗?
襟首が乱れて露わになる肩と首筋。
柊鬼は首を傾けゆっくりと唇を開き、首筋を温めるかのように息を吹き掛ける。そして強くも弱くもない強さで鬼歯を突き立てた。
「っ―――」
ビクリと震える与波の身体を宥めるよう項から後頭部に向けて髪の毛に手を差し込み、そして喉を鳴らしながら柊鬼は身体の内へと流し込んでいく。
舌に絡まる極上のソレは昔から伝わる与波一族のもの。
人間のあいだに生まれた鬼子である柊鬼には、いつかの時代に在った鬼が人間を食らっていた理由も分かる気がした―――それほどにソレは美味なのである。
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